ギャラリー

悠久の自然の中で見たもの、感じたもの、
そして私たちに伝えたかったこと。
星野道夫からのメッセージを
遺された写真と文章で紹介します。

雪、たくさんの言葉

マイナス50度の寒気の中、
チュルチュルとさえずりながら、
一羽のコガラが目の前を飛び抜けた時の
驚きを鮮明に覚えている。
あらゆるものが凍りついた世界で、
なぜさえずることができるのだろう。
10センチほどの小さな身体の中で、
どうやって生命の灯を燃やし続けることが
できるのだろう。

僕はアラスカの冬が好きだ。
生きものたちは、ただ次の春まで存在し続けるため、
ひたむきな生の営みを見せてくれる。

それは自分自身の生物としての生命を振り返らせ、
生きていることの不思議さ、脆さを語りかけてくる。
自然と自分との壁が消え、
一羽の小鳥に元気づけられるのは
可笑しなことだろうか。

一年の半分を占めるアラスカの冬。
それは雪の世界である。
人も動物も植物も、雪と関わりながら
この土地の切れるような冬を生きている。

生きものたちは生存のために
雪に適応してきただけでなく、
生存のために雪が必要なのだ。
そして雪は、暗く寒いこの季節に、
不思議な明るさと暖かさを与えている。

「イニュニック」新潮社より

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